スクール  〜序章〜



「ねえねえ、この問題教えてよー、クラピカ!」
ある日のお昼休みのことだった。
宿題をまだやっていなかった小学6年生のゴンは
高校2年生のクラピカに手伝ってもらおうと必死になっていた。
「全く、あらかじめ家で済ませておくものだろう。困ったものだ。」
クラピカが呆れたような仕草を見せると、ゴンは早口でまくしたてるように言い訳を始めた。
「だってさ、昨日オレはイヤだって言ったのに、
キルアが家に泊りにきて、恥ずかしいことばかりするんだもん!
おまけにそれをミトさんに見られちゃって、ミトさんはやけ酒あおるし・・・、
宿題なんてする暇なかったんだ。」

「な、なんて破廉恥な・・・、キルアの奴め・・・・、私のゴンにやすやすと・・!」

「えっ?」

「コホン・・・いや、な・何でもない・・・。」
つい本音が出てしまって、ゴンの目の前でせわしなく両手を振る。

「ふーん、クラピカってそうなんだ。いいこと聞いちゃったなぁ。」
どこか意地の悪い声がしたと思ったら、クラピカの背後にゴンと同い年のキルアが立っていた。
「なっ・・・!何時の間に!?」
「大体アンタはオッサン狙ってたんじゃねえの?」
「確かに私のターゲットはレオリオでもあるのだが、
 一向に身体を許してくれる気配が・・・、って・・・・・、何を言わせるんだ//////!!チェーン!!チェ〜〜ン!」
クラピカは真っ赤になってキルアに向けて鎖を振るが、あっさりとかわされてしまう。
「生徒会長が二股か・・・、いいのかなあ?まあオレがそうはさせないんだけどね・・・。」
ニヤニヤしていたかと思うと、今度は殺気を放つ。

「オレのゴンに手え出したら、マジで殺す・・・。」

「何という殺気!私の纏で抑えきれないなんて、何たる屈辱!」
「へへーん、またオレの勝ちだな!」
キルアは勝ち誇ってゴンにウインクをするが、ゴンはプイっとそっぽを向いてしまった。
昨夜の事件以来、ゴンはキルアと一言も口を聞いていないのだ。
「ちぇっ、何だよ・・・。」

「どうやら完全に私が負けたわけではないようだな。」
クラピカは口許に邪な願望と嘲りを多分に含んだ笑みを薄く浮かべた。

「ねえ、クラピカぁ、早くしないと昼休み終わっちゃうよぉ!」
ゴンが上目遣いでおねだりするので、クラピカは思わずゴンの頭を撫でた。
「さあゴン、どこが解らないんだ?私が手取り足取り教えてやろう。」
「うん。えーとね・・・」

「くっ‥・・・!(誰にでもしっぽ振りやがって・・・)」
思わず顔をしかめてしまうキルアであった。

そんなやりとりを目の当たりにして、おどおどしている道着姿の少年が一人。
その名はズシ。小学4年生である。
「どうされましたの?顔色がすぐれないですわ。」
声を掛けた和服姿の女の子はズシと同い年のカルト。
実はキルアの妹であるが、あまり似ていないともっぱらの評判である。
「わっ、だ・大丈夫っスよ・・・!」
ズシが大袈裟なぐらい驚いたのには深い訳があった。



両親の反対を押し切ってこのハンター学園に留学してきたのはいいが、
仕送りしてもらえるのはほんの少しの生活費だけで、授業料は自分で稼がなければならなかった。
この学園の授業料は格安なので何とか工面することができそうなのだが、
不幸なことに校則でアルバイトが禁止されている。
何より、まだ子供のズシを雇ってくれるような所などあるわけがない。
やっぱり両親の言った通りだったのか、と途方に暮れたズシは身のまわりの荷物をまとめはじめた。


いざとなるとなかなか勇気が出ないもので、退学届を持ったズシは校長室の前で決断出来ずにいた。
「あれ、ズシ?何してるの?」
急に大きな声が廊下に響きわたったので、驚いて顔を上げると
ちょうど通りかかったらしいゴンが不思議そうにこちらを見ていた。
「わっ、びっくりしたっス!」
ズシは持っていた退学届を懐に隠した。

「ゴメンネ、驚かすつもりじゃなかったんだ。こんなところでどうしたの?」
一点の曇りもない大きな目で見つめられて、ズシはつい目を逸らしてしまう。
こんな様子では嘘をついてもすぐに見破られてしまいそうだ。

「・・・・、テスト0点取っちゃって・・・呼び出されたっス・・。」
我ながら下手くそな嘘だと思う。

ゴンの目に一瞬捨てられた子犬のような物悲しい表情が覗いた。
そしてどこか諦めたような笑顔を浮かべ、小さく「そっか・・・。」と頷いた。
ゴンはいつも努力を惜しまないズシの姿を見ていたので、ズシが0点なんか取るはずもないこと、
つまりズシが嘘をついていることに気がついていた。
ズシはくるりとゴンに背中を向け、胸の中で嘘をついてしまったことを謝りつつ、
校長室の扉をノックし、中へ入っていった。


「校長先生・・・・。」
校長のネテロ氏はたい焼きを食べているところだった。
「どうした、ひどく迷っとるようじゃの。」
ネテロ氏はズシのオーラのイメージから心の内を読み取ってしまう。
「提出したい物があるっス・・。」
ゴンに見つかるまいと咄嗟に懐にしまった退学届を探り出そうとした。

(・・・あれ?)

いくら道着の中を探っても見つからない。
「あの・・・、申し訳ないっス、どこかに落としたみたいっス・・・。」
腹を決めたあとの思いがけないハプニングだったのでズシの心臓は早鐘を打っていた。

「し・失礼しました・・・!!」
最後の最後で恥をかくなんて思っても見なかったズシは、足早に校長室を出ようとする。
「まあ待て。そう慌てなさんな。せっかく来たんじゃからワシとたい焼きでも食うて行かんかのお?」
「で・でも・・・・。」
ズシは何とか早くこの場を去りたいと思うのだが、校長先生相手では断りきれない。
「まあ良い。これを持っていきなさい。」
ネテロ氏はズシにたい焼きをひとつ持たせてやる。
「・・・ありがとうございます・・・・。」

ますます切り出しにくい雰囲気になってしまった。
ズシは複雑な心境で校長室から外に出た。

「ズシ・・・・。」
「わっ、ゴンさん・・・!まだいたっスか!?」
ズシは溜め息をつく暇もなく驚いた。
「これ・・・・・。」
ゴンの手には懐に入れたはずの退学届が握られていた。
「えっ、いつの間に・・・・!?」
ゴンはそれには答えず、ズシの手を引いて人気のない校舎の裏にあるベンチまで連れて行った。


「あの・・・、何スか・・?」
おそるおそる聞いてみる。
「・・・、退学・・・するつもりだったの?」
「・・・・・・・。」
無言で頷く。
「ゴメンネ。ズシがあのままいなくなるのが見てられなくて・・・・、
 ついこの釣竿でズシが校長室に入ろうとした隙に懐から抜き取っちゃったんだ・・・。」
ズシは目を見開いた。
「何でそんな余計なこと・・・!悩んで悩んでやっと決心したことだったっスのに!!」
ズシの大きな目に涙が溜まる。
「ズシだってひどいよ!何でそんな大事なことを相談してくれなかったんだ!
 友達がいなくなっちゃうなんて、オレ、絶対にいやだ!!」
「そんなこと言われたって、相談した所でどうしようもないっスよ!」
「何でそんなこと分かるのさ!?」
「だって、学費のことなんて、ゴンさんたちに相談したって何にもならないじゃないっスか・・・・、あ・・・・!」
ポロリと本当のことを言ってしまって、ズシは口を押さえた。
「もしかして、学費が払えなくて・・・なの?」
ズシはガックリとうなだれた。

「・・・・・・両親とは喧嘩別れだし、秘密でバイトしようとしても、子供だからって断られるし・・・。」
消え入りそうな声で言うズシの膝にポタポタと雫が落ちる。

ポンポンとゴンがズシの背中をたたく。
「それなら、オレのうちに来る?うち酒場だからけっこう時給いいんだ。ちょうどミトさんももう一人お手伝いさんが欲しいって言ってたし。」
「・・・・・・えっ?」
ズシは涙で濡れた顔を上げた。
「もちろんみんなには秘密にしておいてあげるから、ね!」
「・・・・いいんスか・・・?」
「うん!決まりだね!!」
「・・・・・・オス!」

ズシの目からはらはらと涙がこぼれた。
これは、さっきまでの辛い涙ではない。
嬉しくても涙が出てしまうのを、ズシはこのとき初めて知ったのだった。

「あ、そうっス。これ、食べないっスか?」
ズシはたい焼きの入った包み紙を開いてみせる。
「えっ、いいの?うわ〜オレおなか空いてたんだ!半分こしようv」
「オス。」
ズシはたい焼きを半分に割ってゴンに渡した。
「いただきま〜す。はむっ・・・、美味しいね、これ。」
「オスv」


「自分、ズシといいます。よろしくお願いします。」
ゴンの家に着くなりズシはミトさんに威勢よく挨拶した。
「あら、随分カワイイお手伝いさんね。これからよろしくね。」
「オス・・・・じゃなくて、はい!」
「ふふ、そんなにかしこまらないで、普段どおりにすればいいのよ。」
子供好きなミトさんは楽しそうにズシのいがぐり頭を撫でる。
「お・オス・・・。」
「ゴン、買出しのついでにズシくんのエプロン買ってくるから、お店開くまでにお仕事を教えてあげなさいね。」
「うん!」
ミトさんは次男ができたような嬉しい気分で買い物に出て行った。


「ネ!相談して何とかなったでしょ?」
「オス!」


そういうわけで、ズシがゴンの家で働いていることがばれると、取り返しのつかないことになってしまうのである。


キ〜ンコ〜ンカ〜ン・・・・!


お昼休みの終わりのチャイムが鳴る。
「ふう・・・何とか間に合ったぁ・・・・!ありがとう、クラピカ!」
「いや、礼には及ばないよ(何しろゴンとマンツーマンで話すことができたのだからな・・・v)。」
クラピカの笑顔に裏があるのを感じたキルアは舌打ちした。
「チッ・・・、汚いヤツ。なぁ、ズシ。」
キルアはズシの肩に腕をまわした。
「そ・・・、そうっスね・・・・。」
いらないことを喋って墓穴を掘りたくないズシはとりあえず言葉を合わせた。
「やっぱりそう思うだろ?オレもうゴンを諦めてお前に乗り換えちゃおうかなぁ?」
「げ!!!!!!!!!!!!!」
ズシは凍りついた。
「何だよ、あからさまにびっくりした顔しちゃってサ。」
「な・なななに言ってるっスか!?」
「ハハ、ジョークだって!ま、あり得なくはないけどな。」
「・・・・・・・・・。」
「お兄様、お止めになって。ズシ様が困ってますわ。」
カルトが軽蔑の眼差しをキルアに向ける。
「別にいいじゃん。・・・ってか、お前もしかしてズシのこと・・・・そういや、いっつもズシのそばにいるもんな!」
「ベ・べべ別にそういうわけではないですわ//////!」
カルトの頬が赤く染まる。
「顔赤いぜ?」
「きゃ//////////」
カルトは両手で顔を隠した。


そんな話をよそに、ズシは自分の秘密がばれやしないかとヒヤヒヤしているのだった。
「ほらほら、いつまでも騒いでいないで、皆さん席につきなさい。」
教室の引き戸を開けてウイング先生が入ってくる。

雑談が中止されてズシはほっとした。

「はい、では教科書の34ページを開いてくださいね。」

ウイング先生の声が遠くに聞こえる。
ズシは安心したのと午後の陽気が重なって、眠気に襲われたのだ。
そのままズシは夢の中へと旅立ってしまった。




あとがき

いつかは学園ものっていうやつをやってみたいと思っていたので、なかなか満足です
少しだけゴンとズシのカップリングに挑戦してみたんですが、何か失敗っぽいです。
ゴンズシのようなズシゴンのような中途半端なものに・・・。
というか、この二人に関してはどちらが攻か受かをはっきりと決めたくないです。
まーすの中ではどちらも受なので、・・・・・。

ふと思ったんですが、ズシとカルトってオリエンタルな雰囲気を出していて、意外とお似合いかも?
まあそんなこと思ってるのはまーすだけでしょうけど。

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